愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「自分の婚約者をそばに置くことを、どうか理解してほしいな。瑠衣が心配だからさ。君のアシスタントには優秀な人を、早急に手配するから。楽しみにしていて」

CEOはニコニコと話しているが、私の手を握る力がギリギリと強まっていた。
痛い、痛いですって……。そう思うが振り払えない。

「有森。君からも思うところがあれば、なにか言ったほうがいい。とてもじゃないが納得いかないような顔をしてるぞ」

「あの、山内さん……」

私が話そうとした瞬間、CEOは向きをくるっと変えて、山内さんを無視して再び歩きだす。

「きゃ……」

足がもつれそうになりながらも、CEOに手を引かれ私はそのまま部署をあとにした。
唖然としたままの表情をしていた山内さんに、心の中で詫びた。
こんなに呆気なくここを去る日が来るだなんて、思いもしなかった。私自身が一番驚いているのだ。

「さっきの彼、おそらく君のことが好きだね。なんだか妬けるなぁ。だからといって、大人気ない態度を見せちゃったかな。ちょっと彼にあてられたみたいだ」

エレベーターのボタンを押しながらCEOが言う。

「好きだなんて、そ、そんなわけないじゃないですか。お聞きの通りですよ。アシスタントがいないと、仕事が滞るから。それに急すぎて、驚くのも無理はないかと……」

オロオロと否定する私に、彼が急に顔をグイッと近づける。

「うわっ。なんですか。ちっ……近いですよ」

「本当に気づいてないの?彼が気の毒だな。せっかく君をかわいがってきただろうに」

私は目を逸らして、CEOと私の顔の間で軽く手を振った。

「からかわないでください。恋愛したことがないから、こういう状況には慣れていないんです。ほんとに困っちゃうんで……」

「恋愛したことがない?本当に?なのに勝手に結婚を決められて、さらに俺と結婚しようとしてるの?」

彼を見ると、目の前には不思議そうな表情をするCEOの顔があった。

「ふっ……」

その目が、急に細くなる。

そのときエレベーターの扉が開き、手を引かれて一緒に乗り込んだ。



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