愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
小さな頃から兄妹のように育った人を、今さら好きになれるはずなどない。海斗にしても同じことだろう。
だが彼は、両家の親が勧める結婚話に、なぜか初めから乗り気だった。
彼に言わせると、『嫁にするならお前でいいや。気兼ねもないし、楽だしな』という理由らしい。
ついでに『美人じゃないほうが、気を遣わなくて済むしな』だなんて失礼なことまで言いだす始末。
「お前に彼氏ができないのは、俺のせいじゃない。お前に惚れるアホな男がいないせいだ。明日はここには来ないから、今日は泊まらせろよ。終電もないし。婚約者なんだからいいだろ」
そう言いながら、彼は私のベッドにゴソゴソと潜り込んだ。
「もう。なによそれ!勝手なんだから。海斗と結婚なんか、絶対にしないからね!」
確かに私も、彼に気を遣うことなどない。一緒に過ごしていて、きっと一番楽な相手だ。
だけど私たちの間には、ときめきもロマンスもない。
もちろん、愛情も。
今日、私を振った中野さんは、会社に出入りしている業者さんだ。コピー機の調整に度々現れる彼は、海斗とは正反対で、私の理想そのものだった。
やわらかな物腰と、優しそうな笑顔に一瞬で惹かれた。
だけど、意を決して『好きです』と言った私を見て、彼は途端に顔を歪めた。にこやかな彼が、初めて見せた表情だった。
『うわ。本気で言ってるの?よくそんなことを言えるね。営業先の子と付き合うなんて、普通にあり得ないだろう。別れたりしたら、仕事がやりにくいじゃない。それとも君は、自分によほど自信があるのかな』
唖然とする私に、さらに彼は言った。
『悪いけど、俺は担当を変えてもらうよ。もうここには来ないから。今の話は聞かなかったことにするよ。そういうの、本当に迷惑なんだよね。俺は仕事とプライベートはしっかりと分けることにしてるから。あいにくだったね』
あの場面を思い出すと、またしても泣けてくる。
海斗が言うように、この先も私を好きになる人なんていないのだろうか。