愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「奏多さん?」

動きを止めた俺を、瑠衣が不思議そうな顔で見上げている。

「あ……ごめん。考え事をしてた」

俺の不安や未来を一身に背負ってくれる、大切な存在の彼女。
偽りの演技の中で、俺はどこまで君を幸せにできるのだろう。

「まさか……奏多さんのほうが、やめたくなってきたんじゃないですか。偽装結婚なんて、普通ならあり得ないですもんね」

躊躇ったように言う瑠衣に、首を軽く横に振った。

「俺は女性に安定した未来をあげることはできない。君が現れたことによって、結婚の呪縛から開放される。一度結婚したなら、それからはなんとか独身を貫くことができると思う。君には感謝してる」

「そうですか。……私もです」

にっこりと笑って言った彼女だったが、その笑顔はどこか寂しそうに見えた。

「奏多さま。ウェディングサロンの準備が整ったそうです」

伊吹がこちらにやってきて言う。

瑠衣の手をしっかりと繋ぐと、俺は歩きだした。
ふたりの未来を守るための準備をするために。

「行こう。急な話で、迷いや不安は俺にだってある。だけどもう、止まるつもりはないから。お互いに愛のない結婚で、生涯苦しみたくはないからね。それを阻止するために、俺たちは愛し合う婚約者だと思われなければならない」

「そうですね。よろしくお願いします」

瑠衣を見下ろすと、俺を見上げた彼女と目が合う。
ふたりで微かに頷き合い、俺たちはホテルの回転扉からロビーへと向かった。







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