愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「諦めるだなんて。海斗も私と同じで、親に言われて仕方ないだけですよ」
「ご両親には、近々会いにいこう。先に彼を納得させたほうがやりやすい」
コソコソと話しているうちに、支配人の足が止まった。
「こちらが衣装部屋でございます。ご自由にご試着くださいませ。係の者になんなりとお申し付けください」
「ありがとう。ではとりあえず、ふたりきりになりたい。なにかあれば呼ぶよ」
にこやかに言った俺の隣で、瑠衣が驚いた顔をする。
ぞろぞろとあとを付いてきていた、ホテルの担当者たちと、伊吹やSPたちは、素直に部屋から出る。
ふたりになった途端、俺はソファにドサッと座った。
疲れがピークに達している。全身の力が抜けていくのを感じた。
「あー疲れた。瑠衣も少し休んで。いろんなことが、一気に起こったね。人目を気にせずにいられるのは今だけだから、ちょっとごめんね。なぜか君といるのが、心地よくてさ」
楽な体勢で座る俺の隣に、瑠衣はちょこんと座り俺を見た。
「奏多さんのいる世界は……華やかだけど、気が抜けませんね。ひとりでお茶も飲みに行けないんでしょうね。なんだか気の毒です。怖そうな黒ずくめの人たちに監視されるだなんて」