愛され婚～契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます～

強く言ったのは、その言葉を自分に言い聞かせているから。
勘違いしてはいけない。
口約束だけで、あの日のことをすべて信じきれない。

ずっと連絡がないことも、当然の流れなのだ。
海斗が言うように、私と結婚したい人なんていない。それが偽装であっても。
ましてや、彼ほどの人ならばなおさらだ。
時間が経つにつれて、夢物語は終わったのだという思いは強くなっていた。

「確かにそうよね。彼みたいな人とは、びっくりするほどの美人で、あり得ないほどのお金持ちなお嬢様じゃないと、付き合ったりはできないわよね」

沙也加の言葉に、傷つくことすらおこがましいということはわかっている。
だけど彼を忘れることなどできないでいる私は、充分に傷ついていた。

二週間という時間は、私の目を覚まさせるには充分な期間だったようだ。

「だけど瑠衣は、彼氏がいるから余裕よねー。月島ＣＥＯを見ても、なにも感じないのは当然だわ」

「だからあれは、彼氏じゃないってば。腐れ縁の幼なじみなの」

先週、一度海斗が偶然、会議でここを訪れた。
驚く彼に、手短に異動したことを告げたら、自分に報告しなかったことをひどく怒っていた。
『婚約者にそんな重大なことを話さないなんて、どうかしてるぞ。ふざけるな』
海斗が真っ赤な顔で私にそう言い放った様子を、沙也加は隣で見ていたのだ。

「なんで隠すのよ。いい男だったじゃない。ちょっと熱いタイプだったけど」

「隠してないわ。違うから違うと言ってるだけ」

またしても、ここでも海斗の存在が誤解されつつある。
今さらもう、否定することすら面倒だ。言い訳をしても、きっと今までのように誤解を深めていくだけだろう。
当事者である海斗が、否定しないのだから。
だからといって、奏多さんとの関係を持ち出して、本当は奏多さんが婚約者だと言うこともできない。

海斗はあれからすぐに海外出張へ行ったので、その日以来会ってはいない。
帰ってきたら、きっとまた、いつものように罵倒される。正直そんなときは、海斗の存在が面倒だった。
私だって彼に会いたくはないが、すぐさま私の元を訪れるに決まっている。
だけどしばらくは海外だ。海斗とふたりで会うことを、奏多さんが嫌がっていたからちょうどよかった。
……でももうそんなことは、奏多さんにとっては関係ないのかもしれないが。