愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「俺と会えなかった間、例の彼と会ったりしてた?」
彼の表情は後ろを歩く私には見えないが、不安そうな声に聞こえた。
「ううん。海斗は出張に行ったの。来週まで帰らないから」
答えながら、妬いているかのように尋ねられて嬉しくなる。
「そうか。よかった。じゃあ気持ちは変わってないよね?今になって、君に偽装結婚から降りられると、本当に困るからさ。君のことが知れて、親戚中が騒ぎだしてるから」
彼の話に、気持ちが急降下する。
嘘の関係に、私の気持ちなんて関係ない。
彼を好きになったら終わってしまうのだから。
「大丈夫。私も海斗との結婚は、絶対に阻止したいから。途中でやめたりなんかしないわ」
「そ?よかった」
会社の外に出ると、風にはためく彼のネクタイが、彼の肩から見え隠れする。
ぼんやりとそれを見つめながら、必死で涙を堪えた。
好きになったらゲームオーバーだとわかっていながら、どうして彼に惹かれてしまったのだろう。
いっそもう、会えないほうがよかったと思ってしまうほどに、彼に出会ってからの私の頭の中は、奏多さんでいっぱいになっていた。