愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
翌日。
やっぱり昨夜のことなんて何もなかったかのように、ふたりは普通だった。
「おはよう。朝飯作ったから、ちゃんと食べろよ。俺はもう行くから」
海斗に起こされて目覚める。
「うん。……ありがと」
ぼんやりしながら答える私に、彼は極上の笑顔を見せながら、髪をクシャっと撫でてきた。
海斗を見ながら思う。きっとこの顔に騙されて、女の子は彼に恋をするのだと。
だけど私は違う。今さら海斗にときめいたりはしない。
ずっと一緒に過ごしてきた海斗を好きになるなら、もっと早い段階で自分の気持ちに気付いているはずだもの。
結婚話が出たときに、嬉しく思うに決まっているもの。
彼が玄関のドアを閉めて出ていくと、静寂が訪れた。
部屋には香ばしいスープの香りが立ち込めている。それにつられるように起き上がる。
チャーハンにサラダ、コンソメスープ。
テーブルではおいしそうな朝ごはんから湯気が上がっていた。
「海斗以上の男なんて、そうそういるはずない。そんなことはわかっているけど……」
急に自信がなくなっていく。
私に対する傲慢な態度以外は、海斗に欠点などない。
テーブルについてご飯を口に運んだ。
「相変わらず美味しいわね……。悔しい」
つぶやくと、海斗の返事が頭に浮かぶ。
『俺と結婚したら、旨い飯がずっと食えるぞ。俺から離れたいなら、お前はまず、料理教室から通わなきゃいけないんじゃないか。わははは』
頭をブンブンと振って、いつものように海斗の声を消そうとする。
このままじゃダメだ。なんとかしないと。
そう思いながら、再びご飯を頬張った。