片想いレンズ
制服からまだ、消毒液の匂いが微かにした
授業のはじまりを伝えるチャイムが遠くのほうで鳴ったけど、私は階段を登る
重たい扉のさきに広がる空は嘘みたいに青い。
「あっ、サボり魔だ」
寝こっろがっていた物体が起きあがる
「君もでしょ
'そりゃ、そうだ'
1番会いたくなかった人のはずなのに、私の胸は勝手に高鳴る
「渡したよ、手紙」
'サンキ'ュって言いながら、君が私に手をのばした
カサついた手が、私の手を握る。
'よっこらしょ'ってお爺さんみたいに君が立ち上がる
そしてちょとだけ、こっちを向いて笑った。
"桜のはなが咲いてる子"
「腕、見して」
'またかよ'ってあからさまに顔をしかめながら、君が渋々、腕まくりする
赤い点々が幾つも君の腕に、散らばってる
「痛い?
「いつも痛くないって言ってる、」
嫌そうに、腕を掴んだ私を君は振り払った
「お姉ちゃんは、桜のはなって言ってた」
君が下を向いて笑う。
「言いそう、あの人は。」
その横顔はうれしそうに見えて
'気にしてないから、もう'
'だからアンタも気にしなくていいから'
君が火傷の跡に目配せして言った
'手紙、ありがと'
そう言って、扉の中に消えてった。