福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
会社を出て、私のリクエストであるもつ鍋の美味しいお店に向かう途中も彼は「俺との約束忘れて長話しちゃってさ」なんて言って拗ねていたけれど、私はそんな彼の嫉妬にすら〝可愛い〟と思ってしまうのだから、恋とは恐ろしい。
こういうのを、恋は盲目だと言うんだろう。
「お……美味しい」
彼が〝美味しいらしい〟と言って連れてきてくれたもつ鍋専門店。一口口に放った瞬間、私は箸の動きが止まってしまうくらいに感動した。
そんな私を向かいで見た彼は、ドヤ顔で携帯の画面をこちらへ向けた。
「はっはん。俺のリサーチ力をなめないで欲しいよね。いくつもの口コミサイトを見て、いくつもある鍋料理屋さんからここに決めた俺を褒めて欲しい」
彼が私に向ける携帯の画面には、有名な飲食店の口コミサイトが映し出されている。
口コミの星が満点の五つ星で、確かに高い評価を得ているらしいこのお店。だけど。
「西宮さんじゃなくて、これは口コミサイトの手柄じゃないですか」
西宮さんのドヤ顔を崩してみたいという好奇心からそう言うと、案の定、ドヤ顔を崩した西宮さんは目を細めて私のもつ鍋を持ち上げた。
「そういうこと言う子はもつ鍋取り上げちゃいまーす」
私の目の前から消えてしまった小鉢。私の食べかけのもつ鍋が入っている小鉢は、西宮さんの手のひらの上だ。