福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「ちょっと、返してください」
ぐっと手を伸ばして彼の手から小鉢を取り戻そうと試みる。しかし、彼は意地悪く小鉢を高くまで上げると「嫌だね」なんて言って笑う。
西宮さんは今、完全に私の事をからかって遊んでいる。そうに違いない。
そう気づいた私は、下手に小鉢を取り返そうとするのをやめる事を決め、両手を膝の上に置いた。
「もういいです」
そう言ってビールを喉に流し込む。
一口、二口、とビールを飲んだ後でビールジョッキをテーブルに戻すと、西宮さんの持つ小鉢が私の目の前に戻された。
「ちょっとからかいすぎちゃった。ごめん、戻すから怒らないで」
ほらほら、食べて。と言って私の顔色を伺う西宮さん。
あまりにも必死に私の機嫌を取ろうとする彼が面白くて、私はつい口角を上げてしまった。
耐えきれず「ふふ」と声が漏れると、西宮さんは「え、怒ってたんじゃなかったの?」と発して目を丸くした。
「別に、怒ってないですよ」
「嘘!俺、今凄い焦ったんだけど」
「焦ってる西宮さん、面白かったです」
「何それ!俺一人で焦って、顔色伺って、格好悪すぎでしょ」
二人顔を見合わせてくすくすと笑う。
再びもつ鍋の入った小鉢を手にした私は、箸で次々と口内に運んで、西宮さんと何でもない話をし続けた。