福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「はい。社内の女子の間ではかなり有名だったと思います。私も名前は何度も耳にして、入社してすぐに覚えたくらいなので。ひょっとしたらすれ違うくらいはしていたのかもしれないですけど、しっかり見たことは全くなかったです」
「俺の方は履歴書見てるから、麻美の顔は見たことあったけどね。でも、本当に社内で会ったことはないと思うよ」
西宮さんの一言に、渋々お姉さんが開いていた口を閉じた。
「恥ずかしい話だけど、俺の方が結構押したから。最初の方は、半ば無理矢理ご飯連れて行く感じだったし」
黒髪のお姉さんが目を見開いて「珍しい」と呟くと、再び口を開いた。
「それじゃあ、幸人のどこに惹かれたの?」
「えっ、と……」
お姉さんの質問に、私は一瞬眉を顰めた。
確かに、西宮さんの好きなところはたくさんある。だけど、何が決定的に惹かれた理由だったのかは未だに分からない。
「ねえ、幸人がいると言いづらいんじゃない?」
何と答えるべきかを考え、黙り込んでいると黒髪のお姉さんが私を気遣ってくれたのかそう言った。
「そうね。本音が聞きたいし、幸人はちょっと席を外して欲しいんだけど」
「は⁉︎ 待って、俺はその答え聞きたいんだけど」
「うるさい。黙って外して」
「あとで教えてあげるからあっち行ってよ。早く」
「え、ちょ」
席を立ち、西宮さんをぐいぐい引っ張って行くお姉さん二人。
西宮さんを可愛がっているはずの二人が協力して西宮さんをリビングから引きずり出して行く姿を見て、私は微笑ましくてつい口角を上げてしまった。
こんな西宮さんは珍しいな、なんて新しい一面を見れたことを喜んでいると、お姉さん二人が戻って来て私をじっと見た。