福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「ただいまー」
玄関に入り、リビングまで届くように発した。
靴を脱ぎ、家に上がるとリビングの方からバタバタと音が聞こえてくる。すると、その音は段々とこちらは近づいてきて、リビングの扉が開かれた。
「麻美、おかえりなさ……って、あら!貴方が西宮幸人くんね? どんな人かと思ったら、こんなに格好いい恋人を連れてくるなんて、あんた、意外とやるわねえ」
お気に入りの花柄のエプロンを肩にかけた母がにやりと口角を上げた。
「西宮くん、はじめまして。麻美の母です。今日は来てくれてありがとう」
「はじめまして。西宮幸人と申します。こちらこそ、お招きくださってありがとうございます」
西宮さんは、固くなっていた表情を少しだけほぐすとお母さんに小さく頭を下げた。
母は、西宮さんの目の前にスリッパを置くと「どうぞ、上がってね」とだけ残して慌ただしく二階へと上がって行く。
きっと、部屋にいるお父さんを呼びに行ったに違いない。
「どうぞ」
リビングの扉を開き、西宮さんを誘導する。すると、彼はまた表情を固くしてリビングへと入った。
「……あれ」
リビングに入った途端、西宮さんの口から間抜けな声が漏れた。
「どうしたんですか?」
「え、いや、てっきりお父さんとか、ご家族みんな揃ってるんじゃないかと思ってたから」
ふう、と安堵の息を漏らして笑う西宮さん。
どうやら本当に緊張しているらしい彼は、いつもよりも随分下手くそに口角が上がっている。