福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
段々と足音は近くなり、気づけばリビングの扉の向こう側に人の気配がした。ドアノブが向こう側から捻られ、開かれる。すると。
「お父さん連れて来たわ」
まず始めに、何故か呆れたような表情を浮かべた母が顔を出した。
お母さんがリビングへ一歩、二歩を踏み込む。しかし、母に連れて来られたはずの父は入って来ない。
「貴方、入りなさいよ」
母がもう一度リビングの外に消えた。かと思えば、母はもう一度こちらへ戻ってきて、その母に引っ張られるようにして父がリビングへと入ってきた。
「初めまして。麻美さんとお付き合いをさせてもらっています。西宮幸人と申します」
西宮さんがソファーから即座に立ち上がり、頭を下げた。
少なからずまだ緊張はしているに違いないけれど、真っ直ぐ父や母の目を見て挨拶をする姿は何だか西宮さんらしい。
どんな人にも真っ直ぐ向き合うことのできる彼なら、間違いなく父も母も気に入ってくれるに違いない。……そう、思っていたのだけれど。
父は、西宮さんに何も返答を返すことなく私たちの向かいのソファーに黙って腰をかけた。
「お、お父さん!」
ソファーに腰をかけ、明らかにムスッとした表情を浮かべている父。私の声にすら耳を傾けてはくれなさそうな父に、私の眉尻は自然と下がった。