福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
父が、ちらり、と私を見た。
ゆっくり口を開いた父が何かを発するのを黙って待つ。すると。
「麻美の気持ちは、よく分かった」
少しだけ寂しそうな顔をして、父はそう言った。
私は、父の一言につい安堵の息を漏らす。しかし、父の表情はまた固い表情に戻った。
「だけど、結婚は認められないな」
「えっ」
認めてもらえたのかと思いきや、まさかの展開。完全に安堵していた私は、驚きからつい声が漏れた。
「君は、副社長なんだろう? この子は、見ての通り普通のサラリーマンと主婦に育てられた平凡な子だ」
「貴方、」
「それに、たった一人の娘を、性格も、生活感も、何もかもが分からない男に簡単にやれるわけがないだろう」
厳しい顔をして西宮さんに言い放つ父。そんな父の横で、母は眉尻を八の字にして下げている。
生活感の違いを指摘した父に、反抗しようかと思ったけれど、私も最初は西宮さんが副社長というだけで生活感に違いがあると、偏見から決めつけていた事を思い出した。
西宮さんは大丈夫だろうか、と、心配になり西宮さんを見てみるけれど、意外にも彼の表情は前向きそうだった。
「……そうですね。確かに、初めてお会いしていきなり麻美さんをください、だなんて納得できるわけないですよね」
「西宮さん……」
「でも、麻美さんのことは本気なので。僕のことも、麻美さんを幸せにする覚悟があることも、知ってもらえるようこれから何度でもここへ来ます」
流石の西宮さんも、ここまではっきり結婚を認められないと言われれば心が折れてしまうに違いない。そう思ったけれど、彼は意外にも食い下がった。
父の目を見てはっきり宣戦布告をした彼と、それに動じない父。なんだか、二人の間には見えない火花が散っているように思えた。
ああ。もうゴール寸前だと思われた結婚への道のりは、思っていたよりも遠いのかもしれない。