福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
───数日後。
「麻美」
週の真ん中、水曜日。定時を過ぎ、淡々と帰り支度をしていた私に声がかかった。
「優佳、どうしたの?」
私が帰り支度をする手を止めてそう問うと、優佳はほんの少し口角を上げ、ドヤ顔をしながら二枚の紙切れを私に近づけて来た。
これを見よ、と言わんばかりに私に紙切れをアピールしてくる彼女。私が目を凝らしてそれを見てみると、そこには〝恋人で行く 高級ディナーと素敵な夜景〟と書かれている。
「そこ、前にテレビで特集されてるの見たことある!」
数ヶ月前、今話題のデートスポットとしてイケメン若手俳優とお笑い芸人が一緒にロケをしていた。
素敵な夜景を見ながら一流シェフのフレンチを食べられるという高級ホテルのレストラン。たしかにあれは美味しそうだったな、なんて今でも思い出せる程度には印象に残っている。
「そう!このチケット、お義父さんに貰ったんだけど、期限が来週までで私達はちょっと行けなくて。それなら、麻美と副社長にあげようかなぁって思って持ってきたの」
楽しんできて、と言って私に二枚のチケットを差し出してくれる優佳。私は、反射的にそのチケットを受け取ってしまったけれど、もう一度それを優佳に差し戻した。
「ごめん。行けないかもしれないから、やっぱり受け取らないでおく」