福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「例えば、社内で会っても前みたいに話しかけてこなくなったことと、メッセージの返信がいつもより遅いこととか。それから、今週も来週も忙しいから二人の時間は取れなさそうだってメッセージが来たこととか」
単に仕事が忙しいのかもしれないけど、と自分に言い聞かせるために付け足す。
今までこんなことを一人うじうじと気にするたちではなかったけれど、どうしても胸の奥がもやっとしてしまうのは、私の中で西宮さんがそれだけ特別な存在になっているということなのだろう。
それにしても我ながら面倒くさいな、なんて思いながら私はひとつ溜息を零した。
西宮さんが、父の態度を見て心が折れてしまうのも無理はないと思うし、あの日の父の態度は、私のことを避けてしまう理由にするとしても充分だ。
このまま避けられ続けて別れてしまう、なんて未来もそれなりに想像できてしまうから怖い。
「ねえ。本当に仕事が忙しいのかな?」
もし本当にそうなってしまったらどうしよう、と考え始めた私。そんな私の向かいから、声が飛んでくる。
私が優佳を見て、反射的に「え?」と返すと、彼女は眉間に少ししわを寄せた。
「だって、最近、副社長が喫煙所で休憩とってるの見かけるよ? 前はさ、お昼休みも削らないといけないくらい忙しい時も麻美に話しかけてたじゃない」
「……確かに」
彼女の言葉に、私ははっとした。
どれだけ忙しい時も、会えばしつこいくらいに話しかけてくれていた西宮さん。それがここ数日は全く無い。それはつまり、出会った時と、挨拶を終えた今とでは気持ちが違うということなのだろう。