福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
逃げられると追いたくなる
「麻美」
ガラス張りの自動ドアを抜け、大きなロビーをぼうっと歩いていた私の右肩が突然重くなった。
右肩に置かれていた手を辿り、後ろを振り返るとそこには明るい髪色のワンレンショートボブがよく似合う女性がいた。
「優佳。おはよう」
彼女は、高橋優佳(たかはしゆうか)。私と同じ32歳だが、ここ数ヶ月前に高校時代から付き合ってきた一歳年上の男性と籍を入れ、姓が清水から高橋に変わったばかり。
左手の薬指には婚約指輪がこれでもかというくらいに輝いていて、言わずとも幸せであろう彼女を見ていると私の眉間には無意識にシワが寄った。
「ちょっとちょっと、一体どうだったの? 最後の婚活パーティーは」
少し食い気味に優佳が問い詰めてくる。私の右隣に並んで歩きながら、彼女は今か今かと私の返事を待ちわびているようだ。
「それが……」
つい〝副社長がいて〟と言いかけて言葉を飲み込む。
こればかりは、流石にプライバシーに関わるしやめておこう。と思ったと同時に、私は重要なことを思い出した。
彼女は今や結婚して〝人妻〟の身であるけれど、結婚する前も今も変わらず副社長ファンの一人なのである。
「なになに?」
「あー、ううん。なんでもない。ちょっと、歳の近いイケメンな御曹司がいたってだけの話」
ここで婚活パーティーに副社長が来ていたことを話したとする。私が西宮さんと結婚したい!なんて彼女が言い出して早くも離婚危機に陥れば私の責任だ。
まあ、流石にそんなことにはならないと思うけれど、念には念を入れておこう。