福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「お父さんに自分の事を知ってもらいたい、って言ってね。忙しい中毎日ここに来て、二時間くらいお父さんと話をしてくれたのよ」
母の言葉に驚き、西宮さんの方を見る。すると、彼は気まずそうに笑って髪をかき乱した。
「幸人くんは、釣り堀に何度か足を運んだことがあるらしい」
今度一緒に行く約束もしたんだ、と言って笑うお父さんは、どうやら本当に西宮さんのことを認めてくれたらしい。
釣りが好きなお父さんのことだから、その話をしている時は本当に楽しかったんだろうな、なんて話をしているところが想像できた。
「西宮くんが、素敵な人で良かったじゃないか。安心した」
父が、今までで一番朗らかな表情を浮かべる。その瞳には、心なしか涙が浮かんでいるようにも見えた。
「うん。本当に素敵な人だよ」
「ふふ。お互いにとても想いあってるのね。羨ましいわ」
母が笑いながら、部屋の壁にかけている時計に目を写した。時計の短針は、5を指していた。
「あら、もうこんな時間ね。せっかく結婚を認められたことだし、二人でデートでも行ってきたらどう? きっと、最近二人になる時間もなかったんでしょう?」
「あはは、お気遣いありがとうございます。それじゃあ……すみませんが、お言葉に甘えさせてもらってもいいですか?」
「ええ。もちろんよ。行ってらっしゃい」
母の言葉を聞いて、ゆっくり西宮さんが立ち上がる。すると、父が「12時までには返すように」と西宮さんに向けて言った。
「はい。日付が変わる前には送りとどけます」
西宮さんが少し口角を上げながら父にそう返す。なんとなくだけれど、二人の距離が挨拶の時よりも近くなっているのを感じる。