福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「は、入ります!すみません」
小さく頭を下げ、慌ててエレベーターに足を踏み込む。
二歩分くらい距離をとって西宮さんの横に立つと、西宮さんは俯き加減の私の顔を覗き込むようにして口を開いた。
「奇遇だね」
「そうですね。……あの、昨日は、ご馳走様でした」
「いいえ。こちらこそありがと。そういえばさ、今、ちょうど麻美ちゃんに会えないかなー、って思ってたところだったんだよね」
私の顔をまじまじと覗き込みながら、平気で恥ずかしいセリフを吐く西宮さん。
言わずともわかっていたことだけれど、この人、絶対女慣れしてるなと思わずにはいられない。そうでなければ、こんなセリフをさらっと異性に言えるわけがない。
「へえ、そうなんですね」
彼の言葉を、絶対に鵜呑みにしてはいけない。
何度もそう自分に言い聞かせると、私は彼の視線から逃げるようにそっぽを向いた。流石に彼はこれ以上私の顔を覗き込むことはなく、視線を目の前の扉に向けたけれど、どうしてか彼の横顔は笑っている。
「麻美ちゃんって、可愛いよね」
「はっ⁉︎」
「そんな風にして逃げられると、追いたくなる」
「何言って……」
鵜呑みにしてはいけないと自分に言い聞かせたばかりだというのに、彼は私の想像を遥かに超えた発言をしてきた。そのせいで、つい私は大きなリアクションをとってしまったけれど、ちゃんと分かっている。彼が本気で私みたいな女を〝可愛い〟と思っているはずはない。
これは罠だ。引っかかってはいけない。彼の言葉は全て軽いノリで発せられてるに決まってるのだから。