福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
*
「柏原さん、悪いけどお先」
「はい。お疲れ様でした」
企画書を仕上げるために残業を行うこと約三時間。気づけば、時計の短針は9を指していて私は事務所に残る最後の一人になってしまっていた。
「はあ、疲れた」
集中しているとあっという間に時間が過ぎていくけれど、一度気を抜くとどっと押し寄せてくる疲労感。
一度手を止めて気を抜いてしまうと、また仕事を再開するまでに多少なりとも時間が掛かるもの。私は、一度ゼロになってしまった集中力を高める前に少しだけ息抜きをする事にした。
椅子の背もたれに上半身を預け、ぐるりとオフィスを見渡す。昼間のコピー機やパソコン、電話応対の声が混じるガヤガヤとした雰囲気とは真逆の静かなこのオフィスは、なんだか少し気味が悪い。
かち、かち、と秒針の進む音だけが鳴り響く。
昼間のオフィスからは考えられないこの静けさに、お化けでも出ちゃうんじゃないか、なんて馬鹿なことを考え始めてしまった。
そういえば、ついこの間テレビで放送されていた心霊映像でもやっていたな。深夜のオフィスのデスクの下に女性の霊が……。
「……なんて、そんな事あるわけないか」
あるわけないと思いながらも、席から立ち上がった私はしゃがんで机の下を覗き込む。
案の定、私のデスクの下には何もあるわけがなく、ほんの少しホッとした私は口角を上げた。しかし。