福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「はあっ」
考えても考えても分からない西宮さんの言動の理由と、気持ち。私は、定時を過ぎたオフィスで大きく溜息をつくと椅子から立ち上がった。
「あ、柏原さん。今日はもう上がりですか?」
「あ、うん。今日はもう帰ろうかな」
立ち上がった私の斜め後ろの席の永田くんが身体をパソコンに向いたまま顔だけを私の方に向けていた。
「今日、久しぶりに飲みませんか?」
私の返答にくいっと口角を上げた彼は、私にそう提案した。
私は、少し悩んだ後で永田くんに「うん。いいよ。行こうか」と返答をすると、デスクの下に置いていたバッグを手に永田くんとオフィスを出た。
永田くんと私は、会社から徒歩10分圏内にある居酒屋に足を踏み入れると、カウンター席に二人並んで座った。
目の前には二つのビールジョッキと、枝豆、だし巻き卵と焼き鳥が並んでいる。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
お互いのジョッキを軽く当て、自分の喉にビールを勢いよく流し込んだ。
「はあっ、美味し」
半分近くのビールを飲み、ジョッキをカウンターテーブルに置くと、隣の永田くんが「相変わらず良い飲みっぷりですね」と言って笑った。
「そう? 良かった」
「久しぶりに柏原さんが美味しそうにビール飲むところ見たらなんか元気出てきました」
「はは、何それ」
永田くんが今年の春に入社してから、仕事がうまくいかないと悩んでいた永田くんを飲みに連れて行くことが何度かあった。
確かに初めは出来ないことも多くて、空回ってしまうことも多々あったけれど、仕事熱心な彼を放っておけなかった私は、こうして居酒屋に彼を連れ出しては話を聞き、アドバイスをしたりしていた。