福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
私が西宮さんに対して抱いている感情は〝恋〟なんだと気付いてしまった翌日。私は、いつもと変わらず淡々と仕事をこなしていた。
パソコンのディスプレイの右下に目をやると、時刻は〝19:08〟と表示されている。キリのいい所まで、と思い仕事を続けていたけれど、もう既に定時から一時間が過ぎていることに気づいた私は、パソコンの電源を落とすと席を立った。
「お先に失礼します」
残業中の数人に聞こえるよう挨拶をした私は「お疲れさま」という声を背中にオフィスを出た。
オフィスを出て、廊下のちょうど真ん中にあるエレベーターを待っている間、私がぼんやりと考え出したのは西宮さんのこと。
今思えば、恋だと気づく前もそうだったけれど、自分でこれは恋なんだと認めてしまった途端、あらゆる瞬間に西宮さんの事を考えてしまうこの思考回路が恐ろしい。まるで、頭の片隅まで西宮さんに埋め尽くされるような勢いだ。
上の階にいたエレベーターが降りて来て扉が開く。その瞬間でさえ、私は、この扉の奥に西宮さんがいることを期待してしまう。
彼がこの扉の向こう側にいると決まっているわけじゃないのに、どくん、どくん、と勝手に高鳴る鼓動。
久しぶりな胸の高鳴りに戸惑いながらも、淡い期待を抱いている───しかし。