福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜

ゆっくりと開いた扉の向こうには、女性が一人。そこに西宮さんの姿はなかった。

ああ、今日は食堂でも会わなかったのに、なんてつい肩を落としてしまう自分がいることに恥ずかしさすら感じる。


「すみません」

手前に立っている女性に軽く頭を下げて奥の方に立った私は、なんだか見覚えのあったその女性の後ろ姿をまじまじと見た。

胸元くらいまではありそうな、ゆるく巻かれている明るめのブラウンの髪。若くて可愛らしいこの女性をどこで見かけたんだったっけ、と記憶を辿り始めると、私は意外にもすぐに思い出した。


そうだ。昨日のお昼、西宮さんと廊下で話していた女の子に違いない。

そう思い出して一瞬スッキリしたのは良いけれど、昨日の西宮さんを思い出してまたもやっとしだしてしまった胸。私は、また肩を落とすと小さく溜息をついた。

すると、私が溜息をついたとほぼ同時に、一階へ到着したエレベーターの扉が開く。私の前に立っていた女の子に続いて外へ出ると、女の子は突然、ヒールの音を鳴らす速度を速めた。

無意識のうちに、女の子が一直線に向かっている先を見た。


「西宮さん!」

女の子が向かっていく先には、通話を終えたのか、耳に当てていた携帯電話を胸ポケットにしまっている西宮さんがいた。

「遠藤さんか。お疲れさま」

「お疲れさまです。西宮さん、今日も遅くまで残られるんですか?」

西宮さんに駆け寄った女の子の名前を呼んで笑顔を向ける西宮さん。

私の胸は、どくん、と大きく鳴ると、そのあとすぐに鋭い痛みに襲われた。

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