福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「いや、今日はもうあがる予定だよ」
変わらず笑顔で返答する西宮さんを見ているのがどうしても嫌で、私は顔を俯けると二人を通り過ぎた向こうにある出口に向かって歩き出した。
「え、そうなんですかぁ? それなら、今夜私とご飯でも行きましょうよ」
ね? と、言った彼女の表情が浮かぶ。見なくとも分かるその可愛らしい表情に、きっと西宮さんは首を縦に振るんだ。
───そう、思っていると。
「あー、悪いけど、今日も先約ありなんだよね。彼女とこれからデートだからさ。ごめんね?」
「えっ⁉︎」
ぐいっ、と力強く腕を引かれた私は、気づけば西宮さんの隣に立っていた。
「彼女さん、いたんですか?」
「うん。そうだよ。まだ言ってなかったかな? 近々結婚もする予定」
ぐっ、と私の肩を寄せた西宮さん。
また何やら勝手なことを言い出した彼に、私はただ目を丸くして驚いた。
「そうだったんですね……すみません。お疲れさまでした」
遠藤さんは、眉尻を下げて少し悲しそうな顔をすると私たちを通り過ぎて出口に向かって行った。
彼女がいなくなると、西宮さんの右手が私の右肩からゆっくりと離れた。しかし、ちらほらと周りから感じる視線が痛い。