福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「よし。麻美ちゃん、これからご飯行こっか」
「なっ、この状態で何言ってるんですか!こんなの、周りに勘違いされます!さっきの子にもあんな嘘……」
会社のロビーで肩を寄せて、あんな嘘をついて、周りの視線を感じている。この状態でもなお、けろっとした表情で私をご飯に誘ってくる彼は一体何を考えているんだ。
私の問いに、彼は「嘘になんてするつもりないよ」なんて言っては余裕そうに笑っている。
そんな彼の本気か冗談か分からない言葉にさえ、胸大きく高鳴らせてしまう私は、何を返せば良いのか分からず、ただぼうっと突っ立って視線を落とした。
「この後、何か予定ある? 無いなら、このまま連れ去るけど」
彼の言葉に、私は首を横には振らない。
ちょっと強引で、だけど、最低限の選択権は私にも委ねてくれている彼の優しさに何と返そうか。
ああだこうだと言いながらも、彼の言葉や言動はどれも私の心を大きく動かす。
これから予定なんてあるわけもないし、好きな人とご飯に行くことが嫌なわけがない。だけど、素直に首を縦には振れないでいた私の手を、突然西宮さんが掴んだ。
「返事をしないってことは、オッケー、ってことだよね?」
くすっ、と西宮さんが笑う。
いつものように笑って歩き出す彼に、私は全てを見透かされているような気がした。