福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
いつものように「何食べたい?」と、問いかけてくれる彼の指先が、私の腕から手先に移動してお互いの指が絡まる。
所謂恋人繋ぎになった手に、私は恥ずかしくてまた顔を俯けた。
「焼き鳥」
手を繋ぐことなんてあまりなかった私が、嬉しさと恥ずかしさに耐えながら小さく呟くと、西宮さんはくすくすと肩を揺らして笑い出した。
「よくこの雰囲気で〝焼き鳥〟って言えたね。まあ、麻美ちゃんのそういうとこ好きなんだけどさ」
笑っている西宮さんの指先の力が少しだけ強くなる。
「……すみません」
こういう場面で普通の女の子なら、パスタ、とか、サラダ、とか。もっと可愛らしい返答をするのだろうけど、それができない自分に嫌悪感を抱いた。
これだから、私はこの歳になっても独身なのか。
「なんで? いいよ。俺も焼き鳥好きだし。美味しいとこ知ってるから行こ」
だけど、私がこうやって、本当に食べたいものを答えられるのも、相手が西宮さんだからなんじゃないかと思ったりもする。
西宮さんなら、こうやって嫌な顔一つせずにそう笑ってくれるから。
そういう私もひっくるめて受け止めてくれそうな気がしているから、私は不器用なりにありのままで居られるのかもしれない。