福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「はは、いいよいいよ。俺のことを知らない人ってなかなかレアだから。こういうのも新鮮で悪くないね」
「そうでしょうか……」
「うんうん。全然、悪くない。寧ろ良かったよ?」
「いや、良くはないと思うんですけど」
何が良かったのかは分からないけれど、何やら笑顔で頷いている彼。
御曹司と聞けば、お金持ちのおぼっちゃま。勝手な偏見で我儘で傲慢なイメージしかなかったけれど、どうやらこの人はそうではないらしい。
「あ、そうだ。柏原さん」
「はい」
「ねえ、このまま抜け駆けしない?」
「……えっ?」
ぴたり、と止まる思考回路。
副社長は、今私と〝抜け駆けしない?〟と誘ったのだろうか。
「まあ、拒否権はないけどね」
行くよ、と言った副社長が私の腕を握って歩き出した。
「えっ⁉︎ ちょ、ま、待ってください!」
どうやら本当に拒否権はないらしく、私の言葉を聞き入れずに彼は歩き続ける。そして、ホテルを抜け出すと、煌めく夜の街を人混みをかきわけながら進んだ。