福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
ぴたり、と足を止めた彼が私と向かい合う。
いつになく真剣な表情を浮かべている西宮さんに、私は、視線を外すことなんてできるわけもなく、ただ、彼の次の言葉を待った。
頬を撫でる風が冷たい寒空の下。ビルの窓から溢れる光と、街灯が煌めく街中で、彼はゆっくり口を開いた。
「俺、すごく麻美ちゃんが好きだよ。出会って間もないけど、先のことだって真剣に考えていきたいと思うくらい」
誰にも渡したくない、と呟いた彼の指先の力が強くなった。
「えっと、あの……」
「無理して答えようとしなくてもいいよ。知っておいてほしかっただけだから。急かしちゃったみたいでごめんね」
西宮さんがあまりにも真剣に、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれたから、少しだけ戸惑った。
返したい答えなんて、もう決まっている。決まっているのに、うまく言葉にできない。
「まあ、さっき言ったように逃がすつもりはないから、俺のお嫁さんになる覚悟だけしておいてよ」
悪戯に口角を上げて笑った西宮さんが、繋がれた手はそのままに「さて、帰ろうか」と足を進める。
「……好き、です」
私は、静かに、大きく、息を吸い込むと足を止めたままでそう呟いた。