福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
私の隣を歩いている優佳が、こちらを見て目を丸くした。かと思えば「そんな訳ないか」なんて付け足してくすくすと笑いだす。
「あー、えっと」
こういう場合、何と返すのがいいだろうか。嘘をつきたくはないし、つくつもりもない。だけど、あれだけ西宮さんのことは好きじゃないと言い張って来たのに、いきなり〝付き合いました〟とも言いづらい。
そんなことを思っていると、優佳が大きく目を開いて私の顔を覗き込んできた。
「何、まさか本当に付き合ってるっていうの⁉︎」
突然、大きな声を出した彼女に私はびくりと体を反応させた。
彼女は周りの目を気にするようにキョロキョロと視線を動かしたあと「ごめん、つい」と呟いて両手を合わせる。
「ううん。大丈夫。えっと、実は、昨日……付き合うことになりました」
だんだんと小さくなっていく私の声。肝心な最後の部分は、彼女に届いているだろうか。そう思いながら隣を見てみると、どうやら私の言葉は聞こえていたらしく、にやにやとした表情を浮かべる優佳がそこにいた。
「麻美が、あの副社長とねえ……」
「あんなに否定してたけど、結局優佳の言う通りになっちゃったね」
「あはは。まあ、私は間違いなく麻美は副社長のことが好きだと思ってたし、こうなるのも時間の問題だとは思ってたのよ」
こんなに早いとは思わなかったけど、と付け足して笑う優佳がオフィスの扉の前で立ち止まった。
「また詳しく聞かせてよね」
「うん」
「絶対だよ? あ、私ちょっと資料室行ってから行くわ」
優佳が右手を挙げ、それをひらひらと振る。私はそんな彼女と同じように右手のひらを振り、背中を見送ったあとオフィスへと入った。