福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「麻美」
「えっ、あ……西宮さん」
人気のない廊下の隅でしばらく待っていると、私が来た道を西宮さんが歩いて来た。
西宮さんが現れたこともそうだけれど、突然呼び捨てで呼ばれた名前に私の胸はどくん、と大きく跳ねて落ち着かない。
なんだか恥ずかしくて顔をうつむけると、彼はくすっと小さく笑う声を漏らした。
「そういえば、どうして今日は階段で降りて来たの? 下りとはいえ、結構辛いよね」
俺は疲れちゃった、と付け足した西宮さんの表情を見ようと顔を少し上げる。すると彼は、心配そうに私の顔を見た。
「ごめん。本当は何となく気づいてるんだけど、自信なくてさ。ひょっとして、噂のことで何か言われた?」
顔を傾けて私の顔を覗き込もうとする彼の表情は、いつもよりずっと優しい。
柄でもなく彼のこういう所に甘えてしまいたくなるけれど、直接何か言われたわけでもないし、無駄な心配なんてかけたくない。だから、首を横に振ってこの話題は終わらせよう。そう思ったその瞬間。
「言われた、って書いてるよ。ここに」
つん、と彼の人差し指が私の額に触れた。
反射的に、彼が触れた額に自分で触れる。すると、知らず知らずのうちに作っていたらしい眉間のシワに気がついた。
「……直接は、言われてないですけど」