福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「あ……うん。よく覚えてるね」
優佳の口から発せられた名前に、一瞬、どくんと大きく跳ねた私の心臓。
私は、小さく深呼吸をすると、スプーンに乗っている一口大のロコモコを口に運んだ。
「覚えてたというか……昨日会社で会って、思い出したの」
「え?」
また更に大きく跳ねた、私の心臓。
嫌な予感ほど、どうしても的中してしまうもの。私は、さっきまで感じていた嫌な予感はこのことだったのか、と思いながら優佳の次の言葉を待った。
「来客IDカードを首にかけた人が廊下で迷ってたみたいで、応接室まで案内したんだけど、その時に貰った名刺に、小椋唯って書いてて。どっかで聞いたことある名前だと思ったから確かめておきたくて」
「そうだったんだ」
「貰った名刺にスターズ出版って書いてあったけど、大手に勤めてるのね」
にやにや、といやらしく笑っている優佳が考えていることは、私には手に取るように分かった。
きっと、副社長を選んでも唯を選んでも安泰だね、だとか言いだすに違いない。
「どっちに転んでも、将来安泰じゃない」
冗談っぽく笑った彼女の言葉は、やはり私の予測を裏切らなかった。私は、彼女の一言に首を横に振ると口を開く。
「そっちには転ばないから。彼とはもう終わってるし、大体、私の方が振られたんだから」