福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
「あはは、はい。柏原さんとは大学が同じだったんですよ」
西宮さんの問いに唯は何と答えるのだろうかと考えた私の中には、変な緊張感が走っていた。しかし、自然と西宮さんに返された言葉に私は安堵の息を漏らした。
「なるほど。そうだったんですね」
「ええ。柏原さん、それじゃあ」
また、と言って頭を下げた唯。彼は、口角を上げたまま西宮さんとエレベーターに向かって歩き始めた。
「……ついに会っちゃったね」
去っていく二人の背中を見送ると、隣の優佳が遠慮がちに呟く。
眉尻を下げて、少し心配そうな表情を浮かべている彼女は、きっと私の心が揺れてはいないかと心配しているに違いない。
「大丈夫だよ。自分でも驚くくらい落ち着いてるから」
「本当?」
「うん。本当」
「そっか。良かった」
自分でも意外だった。
彼に会った瞬間、一瞬、大きく心臓が跳ねた気がした。だけど、それは本当に一瞬だけ。
ついこの間まで、唯に会ってしまったら私は彼に再び惹かれてしまうんじゃないか。西宮さんの事を好きではなくなってしまうんじゃないか、なんて、そんな事を考えてしまっていた。でも、実際に会ってみて分かった。私の中で彼との恋はちゃんと終わらせられていたんだと。
驚きはしたものの、彼は大学が同じだった〝元恋人〟。今は、それ以上でもそれ以下でもなんでもない。