福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
大切な人だったという事に変わりはないけれど、再会をして何か関係が変わるなんてことはあり得ない。私は、彼に会ってそう確信した。しかし───。
「麻美」
「……唯」
定時を過ぎ、帰り支度を済ませた私が会社を出ると、会社の前で寒そうに首をすくめている懐かしい姿が目に映った。
彼は、私の姿を見つけるなり口角を上げると足を進めて私の方へと向かってくる。
「お疲れ様」
私の目の前までやってくると、彼は少しだけ緊張したような面持ちで笑った。
「うん。唯も、お疲れ様。……どうしてここに?」
人柄の良さが分かる柔らかな表情と、笑った時に出来る笑い皺。四年前と変わらない彼に、何故か私は少しだけ安心した。
彼は、私の問いにまた少しだけ複雑な笑みを浮かべるとゆっくり口を開く。
「これから一杯どう? って、誘いたくて待ってた」
どうかな、と遠慮がちに私の方を見る彼。
昼間に再会した時のあっさりした対応からは少し意外だった彼からの突然の誘い。
どうしようかと返答に困っていると、彼は「せっかくまた会えたんだしさ、大学時代の同級生として」と付け足した。
私は、彼のその言葉にそれもそうか、と納得させられると、ゆっくり首を縦に振り、彼と街並みを歩き始めた。