福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
交差していた恋
「まさか、スターホールディングスに勤めてたなんて。知らなかったから驚いたよ」
会社から徒歩10分程度の場所にあるレストランバー。そのカウンターに腰をかけると、唯が笑ってそう言った。
「私も、まさかスターズ出版に勤めてて、こんなところで会うなんて思ってなかった」
「先月あたりからビジネス雑誌の企画で何回か取材させてもらいに来てたんだけど、久しぶりに会えて良かった」
「うん。そうだね」
こくり、と頷いて目の前のカクテルを喉に流し込む。
「麻美」
「なに?」
不意に呼ばれる名前に胸が高鳴る。
平静を装って返答を返すと、右隣に腰掛けている唯が私とは視線を合わせずゆっくり口を開いた。
「最後に俺が言ったこと、覚えてる?」
目の前にあるハイボールを眺めたまま、口を動かした唯。彼の一言で、私はあの日の記憶を思い出した。
彼と、恋人としていられた最後の日。
彼の家でゆっくり時間を過ごした後、いつものように自宅まで私を送り届けると言った彼と二人並んで夜道を歩いていた時のこと。
彼は、私の家の前で立ち止まると、神妙な面持ちで『別れよう』と私に告げた。
『時々、麻美のことが分からなくなる。何を思っていて、何を求めてるのか。お互い好き合ってるのかも分からなくなる時もあるし、何より、分かってあげられない自分が辛い。だから……好きだから、別れよう』
彼は、私のためにと笑っていたけれど、笑っていたのに、苦しそうで、今にも泣き出しそうな顔をしながら私にそう言った。それが、彼の最後の言葉だった。