福があるにも程がある! 〜残りものは、噂のイケメン御曹司でした〜
慌てて落としかけてしまった携帯をしっかり両手で握り直す。すると、画面の中央には〝西宮 幸人〟の文字が並んでいた。
まるで、以心伝心とも言えるようなタイミングでやって来た西宮さんからの着信に私の口角は自然と上がってしまう。
今にも一人笑い出してしまいそうな程の喜びを抑え、通話ボタンを押した私は画面を耳に当てた。
「麻美ちゃん、お疲れ」
「お疲れさまです」
「今、何してるの?」
「えっと……今は……」
どうしよう。これは正直に答えるべきなのだろうか。でも、会社の外で勝手に待っているなんて答えたら、流石に引かれてしまうだろうか。
そんな事を考えながら足の動きを止めて次の言葉を探している私。すると。
「恋人さんを置いて定時退勤したはずの可愛い子ちゃんが、どうして今、こんなところにいるんですかー?」
突然、右側から私の顔を覗き込むようにして姿を現したのは、私が今会いたかった人。西宮さんだった。
携帯を右耳に当てた状態で発された彼の声は、私の携帯画面の向こうからと、直接、彼の口から聞こえてきた。
「に、西宮さん……!」
いつも突然姿を現わす彼にまた私は驚き、反射的に一歩後ろに下がる。すると、そんな私に合わせて一歩、私の方に近寄った西宮さんがにやりと笑みを浮かべた。