真夜中メリーゴーランド
早朝課外が始まる五分前になると、ぞろぞろとクラスメイトたちが眠そうな顔して登校してくる。廊下が騒がしくなってきたので、私もシャーペンを机に置いてぐっと腕を伸ばす。
「おはよう、那月」
声をかけられたので振り向くと、杏果(ももか)がにこやかに笑って私のほうへと歩いてきていた。
栗色のお団子ヘアがよく似合うかわいらしい彼女は、高校で知り合った私の親友だ。
「杏果、おはよ。今日はめずらしく遅かったね」
「うんそう、朝からバイオリン弾きたくなっちゃって、気づいたらいつも家を出る時間なんだもん、あせったよー」
高校三年間クラスが同じということもあって、杏果のことはだいたいなんでも知っている。しっかりものの杏果だけれど、たまにこういうふうに抜けているところがある。まあ、そこも彼女の魅力のひとつなんだけれど。
「馬鹿だなあ、もう早朝課外始まるよ?」
「でも間に合ってよかった! 晴太(はるた)はまだ来てないみたいだけど」
「あいつは今日も来ないんじゃない? 昨日もサボってたし」
私の前の席を見つめながら「もー」と口を尖らせて杏果がつぶやく。
サボり癖があって基本不真面目な晴太は、今年初めて同じクラスになり、私たちふたりと仲よくなった男の子。群れるのが嫌いでいろんなグループを渡り歩いているような奴なんだけれど、明るい性格と人なつっこい笑顔のおかげかどこだか憎めなくて、誰とでも仲よくなれる愛されキャラだ。
そんな晴太は、クラス替え初日、このクラスでの初めてのお弁当タイムに「購買戦争に負けて昼めしがない」と男女かまわずみんなに食べ物をねだり歩いていた。もちろん私と杏果のところにもやって来たので、私は持っていた焼きそばパンを半分にちぎって差し出した。すると晴太はもともと丸い目をさらに大きく見開きながら目を輝かせて「お前っていい奴だな!」とその場で半分の焼きそばパンを食べ始めたのだ。あとから聞いたことだけど、晴太は購買のパンの中で一番焼きそばパンが好きらしい。
そんなこんなで私と杏果のことを相当気に入ったらしく、お弁当はいつも三人で食べている。しっかり者で頼りがいのある杏果と、サボり癖のある愛されキャラの晴太、それから……ごく普通の、私。ヘンテコな組み合わせの私たちだけれど、案外しっくりくるものがある。
「まあ、さすがに一限目には来ると思うよ」
私の言葉に「そうだね」と杏果は笑って、自分の席へと戻っていった。こうして、私の一日が始まっていく。変な夢を見たこと以外、雨夜の存在が気になること以外、いつもどおりだ。