肖像画とノイズ(短編集)
兆し
【兆し】


 木に打ち付けてあったお札が破られているのを見た。

 電話に雑音、テレビにノイズが走り、カラスがそこら中を飛び回り、ずっと行方不明だった兄が生気のない顔で帰って来た。祖父の形見の腕時計が壊れ、祖母が大事にしていた壺が割れた。

 これは何か嫌なことが起こる前兆かもしれない、と用心し始め、今日でちょうど十年目。先日ふたり目の子どもが生まれ、兄夫婦が両親のために建てた二世帯住宅も完成した。嫌なことは、いつ起こるのだろうと、常にびくびくしている。



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