愛しのエマ【完】
お茶のおかわりを入れると
副社長は「そうそう」と、ビジネスバッグから小さな箱を取り出した。
「昨夜、奈緒さんと一緒に食べたくて買ってきました。シアトルに本店があって懐かしくなりました」
社長のバックから出てきたのは
大人気のクッキー屋さんのチョコチップクッキー
「これ、食べてみたかったんです」
クッキー1枚が高いお店。
今は人気でみんな並んでいて
買う機会が……いや、お金がもったいなくて買えなかった。
目を輝かす私を見て
副社長はぷっと吹き出し「そんな顔もエマに似てます」って私に言う。
一日一回は必ず出るセリフ
『エマに似ている』
それを聞くたびに最近は寂しくなる。
いや
割り切れ。割り切れ。
私の存在価値は【エマさんに似ている】だけの女。
それだけで
30万もらって
豪華なランチ食べて
副社長室で楽な仕事をする。
それだけなんだから
苦しくなっちゃダメ
感情はいらない。
「エマさんも、お菓子好きなんですか?」
「大好き」
副社長は柔らかな表情を見せ
自分のデスクに飾ってる写真を見つめた。