アウト*サイダー
不遜な笑みを浮かべて言ったのを、私は何も考えずに受け入れた。
冷房によって冷やされた体は外に出ると、その熱気が一瞬だけ気持ち良かった。それと同じで、周りの大人たちがかけてくる脅しのような“受験生だから”という決まり文句に抗うのは気持ち良かった。
私の知らない道、知らない家々。自転車に乗って感じる風さえも新鮮だった。
だけど、最初の気持ち良さはだんだんと消えていく。ジリジリと焼けるような暑さが体全身を覆うし、遊ぶとしてもお金がないからどこにも行きようがない。
前を走る背中に、どこに行くの? と、問いかけた。
『……俺の家』
私は、ふーんと答えただけだった。
トクラの家に遊びに行く時と同じ感覚だった。
「着いたぞ!」
リョウスケが胸を張って振り返った。その先に、大きな花壇があって、青や紫の花が所狭しと咲いていた。
「……綺麗」
青々とした真っ直ぐな茎に燦然と花を開かせ、鮮やかな色は殺風景なこの場所の唯一の明かりのようだ。
「これ、花菖蒲だね。こどもの日に家に飾られてる」
「へー、これハナショウブって言うの? ていうか、よく知ってんな」
「リョウスケは花を愛でるタイプじゃないんだし、知らなくてもいいんじゃない」