アウト*サイダー

 不遜な笑みを浮かべて言ったのを、私は何も考えずに受け入れた。

 冷房によって冷やされた体は外に出ると、その熱気が一瞬だけ気持ち良かった。それと同じで、周りの大人たちがかけてくる脅しのような“受験生だから”という決まり文句に抗うのは気持ち良かった。

 私の知らない道、知らない家々。自転車に乗って感じる風さえも新鮮だった。

 だけど、最初の気持ち良さはだんだんと消えていく。ジリジリと焼けるような暑さが体全身を覆うし、遊ぶとしてもお金がないからどこにも行きようがない。

 前を走る背中に、どこに行くの? と、問いかけた。

『……俺の家』

 私は、ふーんと答えただけだった。

 トクラの家に遊びに行く時と同じ感覚だった。

「着いたぞ!」

 リョウスケが胸を張って振り返った。その先に、大きな花壇があって、青や紫の花が所狭しと咲いていた。

「……綺麗」

 青々とした真っ直ぐな茎に燦然と花を開かせ、鮮やかな色は殺風景なこの場所の唯一の明かりのようだ。

「これ、花菖蒲だね。こどもの日に家に飾られてる」

「へー、これハナショウブって言うの? ていうか、よく知ってんな」

「リョウスケは花を愛でるタイプじゃないんだし、知らなくてもいいんじゃない」
< 174 / 466 >

この作品をシェア

pagetop