アウト*サイダー
「待って、田口さん」
人気者の堀江君が、私なんかの名前を呼んでくだすったのだから、立ち止まらん訳にはいかない。
「へえ、何でございましょう?」
刺々しい物言いでも、彼の爽やかスマイルは崩れない。夏場によく売れるウォータープルーフの日焼け止め並みに最強なのかな。
「ちょっと来て」
そう言った彼は私の返事を待たずに腕を掴んで歩き出した。
人気者だから自分が拒否られるとは考えないんだな。私だったら到底できない。よく知らない、仲良くもない相手の腕を掴んで有無を言わさず連れていこうだなんて。
もしかして、この間の告白で私が彼を好いていると勘違いしてるのだろうか。あの、あからさまに気持ちのない告白で。
そう考えると堀江君が憐れに思えてきた。
悪いけど、皆が黄色い声をあげる爽やかスマイルは、私にとって胡散臭い笑顔でしかない。ごめんなさい。
心の内でそっと謝っていた私の腕を引いていた堀江君の足が、階段前の角を曲がった先で止まって、こっちに振り向いた。すぐに離された腕。私はその瞬間を見逃さなかった。
私に触れていた手を、さりげなく制服で拭ったのを。