アウト*サイダー

 誰も居なかったはずなのに届いた声。慌てて上げた視線の先には、へらへらとひどく薄っぺらな笑顔で、蛙座りする彼の姿。

「……ケイ? 先に帰ったんじゃなかったの」

 まだ現実味のない私に、彼はへらへらと笑いながら「うん」と答えた。何をそんなに笑っているんだと訝しげに思ったところで、自分の体勢を思い出し、スカートの裾を引っ張って足を隠す。

「あぁ、もっと見たかったのに……残念」

 眉を下げるケイの頭をポカッと叩いた。

「このド変態」

 スカートの裾をこれでもかと下げる私に、彼がすり足で近付いてくる。顔を上げずに、その足を睨む。

「ハスミ」

 どれほど優しく声をかけたって無駄である。

「ハースミ」

 ちょっと茶目っ気出して可愛く呼んでも。

「俺の可愛いハスミちゃん」

 ふん。甘い声にだって。

「何で泣いてるか、教えて?」

 首の後ろに回された腕で、少し強引に抱き寄せられる。グスグス泣き崩れる私の頭を彼の大きな手が撫でた。

「教えて」

 耳元で囁かれ、嗚咽と共に変な声が出た。口を押さえて彼を見上げると、予想に反して彼は普段通りの涼しい顔をしている。

「教えなきゃ、もっと鳴かせちゃうよ」
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