アウト*サイダー
それにしても、ケイは虚空を呆然と見つめたままで、魂がどこかに彷徨っているみたい。こりゃいかん、と肩を揺さぶってみる。バチッと目が合った。
肩から手を離して、彼の顔の前で手をひらひらと左右に振る。すると、その手は目にも留まらぬ速さで捕まえられ、あっという間に彼の腕の中に体が収まってしまっていた。
「ケイ? どうしたの……?」
突然過ぎてテンパる私がどれだけ体を押しても無駄だった。仕方がないので無駄な抵抗は止める。
早鐘を打つ鼓動の息苦しさを和らげようと、呼吸に意識を向けて気付く。柔軟剤の匂いだろうか、爽やかな優しい彼の香りに包まれて、私は目を閉じた。
「俺にとってハスミが一番だよ」
低い声。全身に伝わる甘い響き。
「ハスミが叶えたいこと俺が全部叶えてあげる」
彼の行動、言葉、その一つで私を懐柔させてしまう。
「不思議なポッケで?」
彼を見上げ、わざと茶化す私にケイは眉を下げて笑った。得意気に私も笑うと、私の額に自分の額をコツンとくっつけて「出来るなら俺の部屋に軟禁したい」事も無げに言ってのける。
「私は普通のデートがしたいのだけど」
「健全なデート?」
馬鹿にしたような笑みを浮かべたケイに、私のイライラメーターが上昇した。
「そうね。現地集合、現地解散、時間厳守の、清き正しく、高校生らしいデートをしましょうか」
不服そうな表情をされるけど、ケイに任せっきりだと、甘い言葉と雰囲気で流されてしまいかねない。そんな事態だけは何としても回避しなければ。
私にとっても、彼にとっても。