アウト*サイダー
沢山の人が行き交う場所で偶然、聞こえてきた声。まるでマイクか何かで拾ったように、それだけが私の耳に届いた。
記憶の中で、何度も私を苦しめてくる声と同じものだった。
幻聴か、ただの聞き間違いか、ここが現在か、過去か、分からなくなる。
辺りを見渡す私に、隣から名前を呼ばれた。その名に反応するように、少し離れた所で振り向いた顔と目が合った。
「……イツキ」
無意識に口から出ていた名前。呼びたくもなかったのに。
中学の頃とは髪色も背格好も違う。だけど、私と合った目は変わっていない。
どこまでも冷たくて、私を毛嫌いする目。
頭では早くここから立ち去るべきだと、逃げるべきだと警報を鳴らしている。なのに、私の足は一歩も動けない。
まるでここが中学校の廊下で、周りにいるお客さんが私を逃がさないように取り囲む同級生で、逃げても逃げる場所がないと刷り込まされた頭は逃げることを許さない。
そうしている間にも、イツキがこっちに向かって歩いてきていた。
逃げなきゃ。駄目だ、お願い、来ないで。
…………怖い。
「あれ? 誰かと思ったらハスミじゃん。ひとつも連絡してこないから死んだかと思ってた」
ふざけたように笑う彼の左側の眉が下がる。よく目にした彼の笑い方だ。
「というか、何その格好? クソほど似合ってないし。まぁ、でも男に気に入られるためにはそれくらいしないとだよな」
イツキの後ろからは一人の男子が近付いてきていた。その機嫌の悪そうな顔に見覚えがあった。