アウト*サイダー

 こういう時の母は恐ろしいほどよく喋る。したたかで、抗えない。

「分かった。分かったから、せめて普通の服を着て」

 頭を抱えて懇願する。朝っぱらから何の言い合いをしているんだと、冷静になって呆れる。

「……心配しなくても、娘の彼氏を取ったりしないわよ。私にはお父さんがいるんだから」

 当たり前だろう。何、色気使おうとしてるんだか。

「ハスミに結婚は……まだ早いからな」

 深刻な顔をして、ぶつぶつ言うお父さんに私とお母さんは目を合わせると同時に溜め息を溢していた。

「お父さん、今時、頭の固い考えは余計に娘を遠ざけるだけよ」

「なっ!?」

「心配しなくとも結婚はまだしないから、とりあえずボサボサの髪と髭を整えてね」

「お、おう、そうか……分かった」

 妻と娘に静かに諭され、困惑気味に返事をしたお父さんは、ようやく箸を持った。

 千枚漬けをぽりぽりと咀嚼しながら気が重くなる。両親のこともあるけど、彼の方が不安だ。

 どうか、普通に来てくれますように。

 そして、何事もなく今日一日が終わりますように。
< 383 / 466 >

この作品をシェア

pagetop