アウト*サイダー

 訝しげな、それでいて含みを持たせた目線を向けるお母さんにへらへらと笑って「こっちの冷蔵庫にもお茶あったよね?」と聞いて、今朝、自分で麦茶を淹れ、これは飲み干すなよと言いつけていたのを思い出す。

 冷や汗を流す私。動揺しているのがバレバレなのに、お母さんは「えぇ、あるわよ」とだけ言って自分の部屋に足を向けた。

 ドキドキと緊張する私がその背中を見送っていれば、急に足を止めて振り返った母。

「今日は久しぶりに韓国ドラマでも観ようと思うわ。きっと集中しちゃうだろうから周りの音も聞こえないかもしれない。あ、でもケイ君が帰る時は、ちゃんと知らせなさいね」

 うふふとお上品に笑う。細められた目にイライラするのはどうしてだろう。

 お母さんの背中が扉の奥に消えた。……と、思ったら、すぐに顔が出てきて「ちなみにお父さんは将棋道場に行っちゃって居ないからね」言いたいことだけ言ってぴしゃりと扉を閉めた。

 しかし、何故お父さんは勝てもしない将棋にハマるのか。定休日である水曜日になると将棋道場にせっせと足を運び、そしてコテンパンに負けてくる。時に小学生に負けたりもする。

 その小学生の男の子には“平日なのに仕事に行かない将棋が下手なヒモ男”だと言われたそうだ。哀れな父だ。今日も負けてくるのだろうな。

 冷蔵庫からお茶を取り出す。食器棚にあるコップを二つ出して、扉の前に立つ。

「ケイ、ごめん、扉開けて」

 コップを持った手にネクタイを引っかけ、反対の手で一リットルの容器になみなみと入れた麦茶を抱えた私が声をかけると、ケイが慌てたように部屋から出てきた。
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