アウト*サイダー
* 抱えた痛み
「そう、そこに入れるんだよ」
耳元で低くぼそぼそと囁かれて、私の手が震えた。
「あぁ、違う。そこじゃなくて……こっち」
私の手にケイの手が重なった。顔から火が出そうな勢いで熱くなる。床に座っている後ろから伝わる彼の体温をどうしても意識してしまい、意識すればするほど彼の息遣いや、僅かに鼻に入る汗の匂いを感じとる。
「上手だね、ハスミ」
首筋に彼の唇が触れた途端、私は我慢ならなくなって彼から離れた。
「何してんのよ!!」
怒る私とは対照的にケイは首を傾げて溜め息を吐いた。
「何って、ハスミがネクタイの結び方を教えろって、ちょうど主人公が敵の勢力を覆そうとする良い場面を邪魔して俺に言ってきたから教えてただけだろ」
ケイはもう一度大袈裟に嘆息をして、読みかけだった漫画を開く。
確かに、唐突にネクタイの結び方を知りたくなって、嫌がるケイに駄々こねて教えてもらったのは私だけれども。教え方のクセがありすぎるんじゃないかと思う訳ですよ。
正面を向いて口頭で教えられても分からないと言えば、彼は私の後ろに座って、わざととしか思えないような……その……変な声を、出して耳元で喋るから変になるのだ。
ちょっと自分でもよく分からなくなったな。
「はいはい、ごめんなさいね!」