アウト*サイダー
「本当は早くに、ちゃんと話すべきだったのに、ごめんね」
これまで私の手を握って話を聞いていたケイが、静かに首を振る。
「怖かっただろ。辛いのに、話してくれてありがとう」
彼の沈痛な面持ちからは、私への侮蔑も何も感じられない。そのことに安堵する私の額にケイが口付けて、髪をとかすように頭を撫でた。
「俺はハスミを大事にする。そんな怖い記憶、忘れさせるから」
引き寄せた私と額を合わせて目を閉じた。それはどこか神聖な儀式のようで、私も目を閉じる。
静寂が、いつかの保健室での事を思い出させた。あの日も、今も、同じくらい緊張している。心地よい緊張だ。後付けになるかもしれないけど、私はずっとケイが好きだったんだと思う。
気付く前と、今と、同じ反応をする鼓動が教えてくれる。
暫くして、彼が少し離れた。私はゆっくりと目を開けた。
「だけど……どうして、ハスミは彼を訴えなかったの?」
彼を見上げると、彼は私を見ながら、どこか遠くを見つめているような、ぼんやりとして言っていた。
「訴えるって、それは……私のされたことを言わなきゃいけないってことだし、学校の皆は当然イツキの味方をするだろうから、私が何か訴えたところで何も……」
「変わるよ? 苦痛を与えた人間には罰を与えられる。それが世の中の当たり前なんだよ。ハスミに与えた傷に匹敵する……いや、それ以上の罰を与えなければいけない」
暗闇にどっぷりと浸かった沼のように輝きを返さない目。口をつぐんで目を泳がせた私に、彼はにっこりと形の良い笑みを浮かべた。