アウト*サイダー
「俺はね、十二歳の時に自分の親と同じ歳の女に無理矢理犯されたんだ」
すぐに言葉が出てこない。
自分の事なのに、まるでニュースを読み上げるかのように淡々と話す彼が、その目の奥深くでは負わされた傷の悲しみを揺らしている。
彼も、同じだ。
ずっと我慢していた涙が、気付いた時には蛇口を目一杯に開ききって流れる水みたいに溢れていた。
「大丈夫だよ。泣かないで? あぁ、でも俺の為に泣いてくれてるんだ。嬉しいよ、ハスミ」
私を包む温かさはいつもと変わらない。なのに、何かが怖くて涙が流れ落ちる。肩にしがみついた私を宥めるように彼が背中をトントンと優しくたたく。
「絵画教室の先生だった。その人はサラが生け花教室をしていた時の生徒でもあって、サラから薦められてその人の所に通うことになった」
彼は「絵なんて興味ないけど、サラは強引なとこがあったから」と可笑しそうに笑う。
「初めは普通の授業だった。デッサンばかり描かせて、残りの時間はあの人のアフタヌーンティーの相手をするだけ。タダで高級なお菓子食べれてラッキーくらいに考えてた」
大分落ち着いてきた私の濡れた頬を拭って、近くにあったティッシュを取り出し、鼻をかませた。鼻水なんて汚いのに、ケイは嫌な顔を全然しない。
「でも、お菓子を一緒に食べるだけだったのが、俺をモデルにして描きたいって言われて、それから、服を脱ぐように言われていって……」
彼から表情が消えていく。まるで、その時の彼に戻っていくみたいに。
「俺は何度も弄ばれた。体が変になっていくのが分かった。もう何が正しいのかも判断がつかなくなっていた」
止まったはずの涙がまた流れ落ちた。
「大丈夫。俺はあの人に罰を与えられたんだから。決定的な証拠はアトリエにいくつもあった。何か分かる?」
私の頬に手を添えた彼が顔を近付ける。
「精子まみれのキャンバスと、俺の裸を描いた絵がおびただしく飾られていたんだよ。警察に通じる言い訳なんかあるはずもない」