アウト*サイダー
「やっぱり私、ハスミンが良い」
「ん?」
もはや何が溶けているのか分からない、黒くなった目をぱちくりさせる篠田さん。急に溢れだす冷や汗。逃げる前に、斜向かいに座っていた私の手は掴まれていた。
「宮永と付き合ったままで良い。私をハスミンの愛人にして!」
まさかの愛人発言を大声で叫び、店内が静寂に包まれた。いや、正確には間の抜けた電子音で鳴り響くメルヘンな音楽が場違いのように流れ、店のマスコットキャラクターなのか、いやに高い声で「美味しい魔法にかかっちゃえ!」という謎の台詞が誰の声にも邪魔されず、鮮明に聞こえていた。
「それは無理」
「ハスミンの即答!」
須賀さんが笑いながら打ちひしがれる篠田さんの腕を叩く。店の喧騒はすぐに戻った。
「えぇっ、何で? 私、超献身的なんだよ。ご飯もあーん、ってしてあげるのに」
「料理も家事も出来ない奴が、なにが献身的だ」
「彼氏の家ではしてたんだって。私の作ったカレー、マサ君すっごい好きだったんだから」
そのカレーは、まさか……
「レトルトのカレーだろうが」
呆れて何も言えない私の隣でハルちゃんが楽しそうに笑う。
「ご、ごめんね。なんか、つまらない漫才見るより、面白くって……!」
はい、いただきました、毒っ気ハルちゃん。ごちそうさまです。