アウト*サイダー
彼が目の前に居るわけでもないのに、隠れたくなる。全身が熱い。
『でも、ごめんね、ハスミ。本当はメッセージを送れば良かったんだけど、それだとハスミが俺に電話してくれなくなると思ってしなかったんだ。……まぁ、結局俺が我慢出来ずに、すぐ電話しちゃった』
彼に踊らされていたって訳か。許して、と甘えた声を出すケイ。可愛いけど、簡単に許してなんか……
「ねぇ、いつ会える?」
私は彼に出会ってから踊らされなかったことはないと思うの。だから、許す、許さないの話ではなくて、とにかく私は彼に首ったけというだけなのだ。誠に不本意ではあるが。
『今から会いに行く』
電話の向こうで彼が動き出したような音が聞こえる。今、階段を下りているのか、軽快な足音が続く。
「なるべく早く来てね」
嬉しくて仕方ないのを隠して言った。なのに、彼がやけに楽しそうに笑うから、きっと全部バレている。
『分かった。ちゃんと大人しく待ってるんだよ』
私は諦めて素直に頷いた。
『あと、会えなかった分、いっぱいハスミを可愛がるつもりだから、可愛がられる準備をしておいて』
どんな準備だよ。
私が出来るのは、彼の極度に甘い微笑みと、言葉、それから私を捕らえて中々離れない優しい拘束の羞恥に耐え抜けるよう、心構えをするだけ。
小学生の頃、水泳の授業でやった水中で息止めするのと同じ。初めはすぐに我慢出来なくなるが、何度もやっていく内に慣れて長く息を止められるようになる。
一秒でも長く、彼に捕まえられていたい。いつも、恥ずかしさや照れが邪魔をする。我ながら面倒な天の邪鬼だと思う。